──他院で断られた患者が辿り着く、口腔外科の“最後の砦”
やまなデンタルオフィス
院長 山名 唯(やまな ゆい)

↑写真右側が山名院長
大阪府堺市西区に構える「やまなデンタルオフィス」。
その扉を叩くのは、近隣住民だけではない。
神戸、明石、さらには京都といった遠方からも、救いを求めるように患者が訪れる。
驚くべきは、来院する患者の約3割が、他の歯科医院で「うちでは診られない」と断られた経験を有しているということだ。
超高齢社会を迎え、何らかの持病を抱えながら歯科治療を必要とする人々が増え続けている。
そんな中、同院の院長、山名 唯(やまな ゆい)歯科医師は「病気があるから」という理由で治療を諦めない。
そこには、口腔外科と歯科麻酔という、彼が歩んできた専門領域への絶対的な自負がある。
「当たり前のことを、当たり前にやるだけなんです」山名歯科医師が語る「当たり前」の中身を紐解いていくと、現代の歯科医療が見落としがちな、プロフェッショナリズムや、一人の人間としての誠実さが垣間見えた。
「断らない」原点は口腔外科にあった
山名医師のキャリアの根幹は、口腔外科にある。
大学病院などの医療機関で研鑽を積み、特に歯科麻酔という専門領域に深く関わってきた。
一般的な歯科医師が「歯の修復」に主眼を置くのに対し、彼が注力してきたのは「全身疾患を持つ患者に対して、いかに安全に、治療を完遂するか」という領域だった。
「歯医者って、どうしても『歯だけを見ている』と思われがちですよね。
でも実際には、体に重い病気を抱えていたり、半身麻痺があったりする方もたくさんいらっしゃいます。
そういった方々を、うちでは基本的にはお断りしません。
むしろ、そこが自分の最も得意としているところなんです」
半身麻痺や重度の全身疾患を持つ患者の治療は、急変のリスクを伴うため、一般的な開業医では敬遠されることも少なくない。
しかし山名歯科医師は、静脈内鎮静法(セデーション)などの高度な技術を駆使し、患者の不安や身体的負担を最小限に抑えながら治療を進めることができる。この「全身管理ができる」という強みこそが、近隣の歯科医院にはない、やまなデンタルオフィスの特色となっている。
彼にとって、歯を診ることは、その人の「命」の一部を預かることに等しい。
口腔外科と歯科麻酔という二つの専門性が交わる地点に、彼の臨床の核が存在している。

地域の“駆け込み寺”としての使命
現在、同院を訪れる患者の約7割は高齢者が占めている。
複数の薬を服用し、複雑な既往歴を持つ患者が多い一方で、安心して口の中を任せられる歯科医院は決して多くないのが現実だ。
他院から紹介がきた「受け入れ困難」な症例に対し、山名歯科医師は一様に門戸を閉ざすことはない。
「よそでは無理と言われたケースでも、基本的にはゴールまでやり切ります。
『もうここしかない』という覚悟で来られる方も多いですから」
その言葉通り、山名歯科医師は患者の状態を緻密に分析し、自院で対応できる限界を見極めた上で、誠実に向き合い続ける。
驚くべきは、こうした難症例の患者の多くが、広告ではなく「口コミ」によって集まっていることだ。
彼は一切の広告戦略を行っていない。
患者のリテラシーが高まっている現代において、派手な営業文句よりも、目の前の治療結果こそが最大の信頼獲得に結びつくと確信しているからだ。
「自分たちにどれだけの時間をかけてくれるか。
患者さんはそういう物差しを持って見ていらっしゃいます」その確信は、やまなデンタルオフィスを単なる歯科医院ではなく、地域の「駆け込み寺」へと昇華させている。
中途半端な治療はしない、歯科医師としての矜持
山名歯科医師の診療スタイルは、現代の効率性重視の流れとは一線を画す。
1日の予約人数をあえて制限し、一人ひとりの患者に十分な時間を割くことを徹底している。
特に初診においては、時間の半分以上を「説明(インフォームドコンセント)」に充てることも珍しくない。
歯科治療は、一度削ったり抜いたりすれば、後戻りはできない。
そして、治療が終わった瞬間から「予後」という新たなステージが始まる。
「治療の全体像を患者さん自身が理解し、納得していただかなければ、どれだけ良い処置をしても予後は良くなりません。
説明だけで初診が終わることもありますが、それは患者さんの将来を守るために必要なプロセスなんです」
時には、とにかく早く終わらせることだけを求める患者に対し、「それならば他院へ行ってください」とはっきり告げることもある。
それは、中途半端な治療は結果として患者のためにならないという、歯科医師としての覚悟と誠実さの表れでもある。治療範囲は多岐にわたり、難易度の高い親知らずの抜歯から矯正の相談まで、多角的な視点でアドバイスを行う。
「歯だけを診るのではなく、生活と健康を診る」。
その姿勢を支えているのは、やはり口腔外科という現場で培われた経験だ。
哲学を支える、大切な存在
インタビューの中で、山名医師が最も熱を込めて語ったのは、意外にも治療技術のことではなく、「スタッフ」への想いだった。
歯科医療は、決して医師一人で完結するものではない。
スタッフの緻密なサポートがあり、患者とのコミュニケーションが成立して初めて、質の高い診療が成り立つ。
「一番大事なのは、スタッフかもしれないですね。
彼女たちが安心して、幸せに働けていなければ、患者さんを幸せにすることなんて不可能です」
山名歯科医師のマネジメント哲学は、日々の「観察」にある。
スタッフの動きを細かく見守り、小さな工夫や努力を絶対に見逃さない。
良い仕事をしていればその場で言葉にして伝える。
「人は、自分にどれだけ関心を向け、時間をかけてくれているかを感じ取ります。
それは患者さんもスタッフも同じ。
しっかりと周りを見渡すことが、私の経営者としての仕事だと思っています」スタッフが安心して働ける体制を整え、風通しの良い職場環境を維持すること。
そのための努力を、山名歯科医師は惜しまない。

今後の展望
多くのクリニックがチェア数を増やし、分院展開を目指す一方で、山名歯科医師は規模の拡大には興味を示さない。
「規模を大きくすれば売上は上がるかもしれませんが、それでは一人ひとりの患者さんに時間をかけられなくなります。
スタッフへの目も届かなくなる。
それは私がやりたい医療ではありません」
現在のスタイルを貫き、質の高い医療を提供し続けること。
スタッフと共に、一日一日の診療に誠実に向き合うこと。
その「足るを知る」姿勢は、医療がビジネス化しつつある現代において、非常に稀有で尊いものに見える。規模の拡大ではなく、関係性の構築。
それが山名歯科医師が選んだ、地域医療への向き合い方なのだ。
主体的に「選ぶ」ということ
最後に、患者へのメッセージを問うと、彼は歯科業界全体を俯瞰したような、温かくも鋭い視点で語ってくれた。
「基本的に、どの歯科医師も『患者さんを良くしたい』という想いは共通しています。
でも、人間ですから得意分野もあれば不得意な領域もある。それは仕方のないことです」
だからこそ、患者自身が情報を集め、自分に合った歯科医院を主体的に選んでほしいと彼は願う。
「もし今の治療に疑問があれば、セカンドオピニオンを受けてもいい。
ご自身が納得できる先生に出会うまで、諦めないでほしいんです。
それが結果として、ご自身の健康を守ることに繋がるのですから」情報を得て、理解し、納得して、選ぶ。
患者が主体性を持ち、このサイクルを回していくことこそが、地域の健康増進に直結すると山名歯科医師は考えている。
当たり前を、当たり前に積み重ねる
山名唯という歯科医師像を形作っているのは、派手なビジョンや最新の設備ではない。
「口腔外科の視点で全身を診る」「嘘をつかずに説明を尽くす」「スタッフの幸せを願う」。
彼が「当たり前」だと語る一つひとつの行為が、行き場を失った患者や、信念を共に働くスタッフの希望となっている。
取材を終えた後、ふと気づかされた。
私たちが医療に求めているのは、魔法のような奇跡ではなく、このような「誠実さ」の積み重ねなのではないだろうか。
山名医師の静かな覚悟は、今日も誰かの人生を支え続けている。

(編集後記)
「断らない」という言葉の裏には、人知れず積み上げられた膨大な知識と経験、そして患者の人生を背負う重圧がある。
山名歯科医師はそれを「当たり前」と笑い飛ばすが、その一言に救われている患者やスタッフがどれほど多いことか。
規模を追わず、質の深さを追求する彼の姿勢は、これからの地域医療の理想的な在り方を示唆しているようだった。
やまなデンタルオフィス
院長 山名 唯(やまな ゆい)
口腔外科と歯科麻酔を専門とし、全身管理に精通 。他院で受け入れ困難とされた難症例や高齢者の治療を積極的に受け入れ、「断らない」診療を貫く 。予約制で一人ひとりに十分な時間をかけ、インフォームドコンセントを徹底 。スタッフの幸せと質の高い医療を追求し、地域の「駆け込み寺」として信頼を集める 。
