「ジタバタする医療」で患者に寄り添う

医療法人hi-mex耳鼻咽喉科サージクリニック老木医院
理事長 老木 浩之(おいき・ひろゆき)

「医療には、極めて特殊な点があります。治療する側と受ける側とで、情報量の差がものすごく大きい。医師である以上、私たちはこの格差があることを常に自覚し、誠実に向き合わなければならないと考えています」

そう語るのは、大阪で24年にわたり地域医療に貢献してきた、医療法人hi-mex耳鼻咽喉科サージクリニック老木医院 理事長の老木浩之医師だ。クリニックの売り上げや効率を優先するのではなく、患者のために存在する全ての選択肢を提示する。

一見、効率とは逆行するその姿勢。老木医師の医療哲学に迫った。

老木浩之医師が患者の診察を行う様子
目次

“諦めない”を共にする。老木医師が目指す、患者と共に挑む医療

老木医師が耳鼻咽喉科医を選んだ理由は、この診療科の特性にある。内科のように複数の科をまたぐことなく、診断から手術、術後フォローアップまで、一人の患者を最初から最後まで一貫して診ることができる。この「完結性」が、患者の全責任を負うという医師としての使命感を強く刺激したという。

しかし、地域で医療を続けていく中で、一つの課題に直面する。多くの医療機関で、患者の病状や状態によって提示される治療法が限定されてしまうことだ。 例えば、A、B、Cという三つの治療法があるとして、クリニックではBまでしかできない場合にBの選択肢しか示さないのは良くない。Cが必要であれば、大きな病院を紹介する。すべての選択肢を正確に伝える誠実さが必要だという。

「うちでは、『ジタバタする医療』という言葉を掲げているんです。これは、患者さんが諦めずに治療を続けるのと同じように、私たちも諦めが悪いというか、なかなか治らない症状があったとしても一緒にジタバタしましょう、という意味。期待を決して裏切らないよう、常に最善を尽くします」

他のクリニックで症状が改善せず、わらにもすがる思いで訪れる患者にとって、この言葉は大きな救いとなっている。

老木浩之医師が耳鼻咽喉科の治療・処置を行っている場面

地域医療に、大病院レベルの専門性を

老木医院の大きな特徴は、「地域に密着した医療」と「専門性の高い治療」を両立させている点にある。

その要素としてあげられるのが、治療の網羅性だ。日本人の五割が罹患しているとも言われるアレルギー性鼻炎に対し、老木医師はガイドラインに載っている治療を全て提供できる体制を築いている。内服薬だけでなく、注射による治療や舌下免疫療法、さらには手術まで、多様な選択肢を持つことは、まさに患者の利益を最優先する姿勢の表れだ。

短期滞在手術に対応した老木医院の治療室

もう一つは、短期滞在手術における安全性へのこだわりである。日帰り手術を導入するクリニックが増える中、老木医師は一貫して「最低1泊」の入院を勧めている。 

「日帰りにできないわけではないですが、安全性を考えれば、手術後、最も体調が不安定でしんどい時間を院内で看護師についていてもらいながら過ごす方が、安心感も大きくなります。患者さんの安全と安心を第一に考え、入院設備を整えています」

これは、地域密着型のクリニックでありながら、大病院に匹敵する専門性と安全性を追求し、提供価値を最大化するためのこだわりだ。

老木医院の入院設備(手術後の安全性と安心を確保するための環境)

理念経営と「Re-Born宣言2025」

質の高い医療を持続的に提供するためには、医師個人の努力だけでなく、組織全体でその理念を共有し、進化し続ける必要がある。

老木医師は、全スタッフが職種に関わらず、一つの理念に向かって働く「理念経営」を重視している。それが、患者へのサービス向上だけでなく、スタッフの使命感や定着にも繋がると確信しているという。

そして、開業24年を経て、組織の「進化」を促すための大変革に着手した。それが「Re-Born宣言2025」だ。

 「長年診療していると、私自身も、スタッフも、マンネリ化しているのではないかという心配がありました。今までのことを見直し、ガラッと変わるような大変革をしようと取り組んでいます」

その取り組みは多岐にわたる。 難聴対策の最新機器のデモンストレーションを院内で開催し、患者が機器を体験できる機会を創出。待合室の時間を有効活用できるよう、座ったままできる健康体操の映像を流す。さらに、スタッフの働き方改革として、診療時間を大幅に前倒しした。

「診療時間を前倒しすることで、患者さんには多少ご不便をおかけしましたが、優秀なスタッフにきっちり働いてもらった結果、より良い医療を提供できたと感じています。時代が進化すれば、医院も進化していかないといけないと思っています」

患者への提供価値、スタッフの働きやすさ、そして安全性の全てをブラッシュアップするこの改革は、まさに「患者のために最善を尽くす」という理念を体現するものだ。

老木医院の院内の様子(患者が安心して過ごせる空間づくり)

理想の医療を確かなものにするために

老木医師が見据えるのは、高齢化が進む社会での医療のあり方だ。現在、確立した治療法がない老人性難聴など、高齢者のニーズに応える医療を提供することが今後の重要な課題となる。

「ご高齢の方に支持されるような医療を提供していきたいです。これからも新しい価値の生み出し方を考えていきます」

そして、情報の非対称性を埋めるための取り組みも継続する。 YouTubeなどで、耳垢の取り方といった日常的なことから、専門的な内容まで発信している。情報発信は、医者の一つの役割だと考えているという。

ネット社会において情報が溢れ、患者が自分で誤った診断を下すケースも少なくない。そうした中で、老木医師は、自身の経験とエビデンスに基づいた”正しい知識”を伝え続けることが、患者との信頼関係を築く上で不可欠だと捉えている。

目の前の患者の治療に全力を尽くす「臨床家」として、そして、より良い医療を社会に届けようとする「思想家」として。老木浩之医師の白衣の向こう側には、情報格差という壁に誠実に挑み続け、患者と共に治る未来を「ジタバタ」追い求める、揺るぎない信念が息づいている。

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