「透明性」が拓く未来

ー眼科医・稲垣圭司が目指す「見える医療」

イナガキ眼科
理事長 稲垣圭司(いながき・けいじ)

目次

医療が持つ「閉鎖性」に挑む

イナガキ眼科 稲垣圭司医師(いながき・けいじ)医師の医療哲学を象徴するのは、「見える医療」への徹底したこだわりだ。
眼科領域における手術は、安全と集中を最優先するため、これまで患者や家族の目に触れない閉ざされた空間で行われるのが常識とされてきた。
しかし稲垣医師は、その前提に疑問を投げかける。

家族が手術を見守れる環境を整え、将来的にはガラス張りの「公開型手術室」の構想も視野に入れる。
これは単なる演出ではない。「見えること」そのものが、医療への信頼を構築すると信じているからだ。
稲垣医師が真に向き合っているのは、「医療はなぜ閉鎖的であり続けるのか」「閉じたままでは、技術は次世代へ継承されないのではないか」という根源的な問いである。

そしてこのテーマは、患者だけでなく、眼科医の「手術教育」というもう一つの重要な領域にも広がっている。
一人のドクターが生涯で救える患者数には限界がある。
どれほど卓越した技術を持っていても、それを独占するのではなく、広く担い手を増やすこと。
その方が、結果として社会に残る価値は計り知れないと考える。
見える医療とは、安心を共有し、技術を未来へつなぐための、稲垣医師の覚悟に他ならない。

精密さと結果が示す、進むべき道

稲垣医師が眼科医を志した背景には、前身のクリニックを開院した父の存在があった。
そして、決定打となったのは、研修医時代に触れた眼科手術の独特な世界だった。
「網膜剥離や糖尿病網膜症、救急での眼球破裂など、眼科の手術は極めて緻密です。見学した瞬間に、“自分もこの世界で技術を極めたい”と決意しました」

眼科手術の魅力は、その精密さだけではない。手術の結果が、視力という極めて明確な指標として患者の生活に直結する点にある。
「手術の成果が視力という形で現れ、患者さんが良くなって喜んでくれる。その反応が、何よりのやりがいでした」

努力と結果の因果関係が明確であるからこそ、技術を磨くべき方向性もはっきりする。
稲垣医師にとって眼科手術は、自分の時間と努力がそのまま臨床の成果として返ってくる、実に再現性の高い領域だった。

技術の共有と教育への危機感

稲垣医師は手術を軸にキャリアを築き、聖路加国際病院眼科で硝子体手術の名医である大越医師のもとで集中的に硝子体手術の経験を積んだ。
多くの施設を渡り歩くのではなく、一つの現場で深く手術と向き合うことを選んだのには理由がある。

「特に硝子体手術などの技術は習得が大変で、当時は各施設に一人いるかいないかというほど、できる医師が少なかったのです」
だからこそ、若い時期にどれだけ手術機会を得られるかが、その後の技量を大きく左右するという危機感を抱いている。

「医師になって5年以内といった早い時期に経験を積まないと、後から始めると後輩に追いつけず、精神的にも厳しい状況になってしまいます。努力だけでは埋められない差が生まれる構造があると私は考えています」
こうした問題意識が、稲垣医師を「教育」へと向かわせた。

自身が何千件と手術をこなすよりも、一定水準以上の安全な技術を持つ医師を世に送り出すこと。
その方が、社会全体として救える患者は確実に増える。
「自分のクリニックから巣立った先生が、別の場所で安全に手術をしてくれれば、それだけ多くの人が助かります。だからこそ、手術教育に力を入れたいのです」

医師の世界では、技術は個人の評価と結びつきがちだが、稲垣医師はそこに留まらない。
技術を「共有可能な資産」として捉え、次世代への継承に責任を負う姿勢を示している。

チーム設計で守る安全と教育

稲垣医師のクリニックでは、複数の医師とチームで手術に臨む体制が整っている。
これには明確な理由がある。
「一人のドクターが無理に手術件数を増やそうとすれば、スタッフは疲弊し、検査や準備もすべて回らなくなる。そのような現場では、安全性を維持できません」

医療は術者一人では成立しない。
看護師、検査スタッフ、手術準備を担う人々の負荷を無視すれば、安全体制は容易に崩壊する。
このため稲垣医師は、新クリニックでは手術室を拡張し、手術台を二つに増設し、教育機会の提供と安全性の確保を両立できる設計を考えている。

さらに、家族が手術を見守れる公開型手術室や、手術映像を共有できる環境も、その思想に基づいている。
見えることで安全が守られ、見えることで技術が伝わる。
そこには「透明性」という一貫したテーマがある。

専門性を軸に、地域の中核を目指す

稲垣医師は、地元である千葉県浦安で育ったドクターとして、その土地で高水準の手術医療を提供することに強い使命感を見出している。
「地元から、日本全体に通用する手術を提供したい。関東圏の眼科手術における中核病院の一つになりたいと思っています」

すべてを自院で抱え込むのではなく、結膜炎やアレルギー、コンタクト診療などは地域の眼科と役割を分担し、手術が必要な患者を中心に受け入れる。
この明確な設計が、地域医療との健全な連携を保つ鍵となる。

外国人患者についても同様だ。日本語が話せない患者であっても、通訳体制があれば手術を提供する。
判断基準は、「できるかどうか」ではなく、「どうすればできるか」に置かれている。

「透明性」が育む、医療の未来

稲垣医師は、専門性を積まないまま手術を行う美容医療の潮流にも警鐘を鳴らす。
「専門性を確立した上で美容外科を担う分には良いですが、何も積み上げずに進めば、必ず壁にぶつかります」
その上で彼が描くのは、眼科としての軸を失わず、周辺領域の自費診療も担う「ハイブリッド型」の医療機関だ。
専門性を確固たるものとして、社会の多様な需要に応えていく。

見えないから、患者や家族が不安になる。
見えないから、医師に技術が継承されない。
ならば、見えるようにすればいい。

可視化することで、技術と信頼の輪を広げる。
その挑戦は、単なる医院規模の拡大や生産性の話に終始しない。

「透明性」が、医療の未来を育んでいく。
信念を胸に、稲垣医師は今日も手術台に立ち続けている。

イナガキ眼科
理事長 稲垣圭司(いながき・けいじ)

順天堂大学医学部を卒業後、聖路加国際病院で硝子体手術を中心に研鑽を積み、精密さと結果に向き合ってきた。父から医院を継承し、浦安で日帰り手術を中心とした高度な眼科医療を提供している。家族が見守れる公開型手術室の構想や、チーム体制による安全設計を通じ、安心の共有と次世代教育を両立。地域の中核として高水準の医療を提供し、技術を社会に広げることを使命とする。

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