── 対話とぬくもりで地域を包む、“喫茶店のような”クリニックのかたち
ひだまり内科クリニック
院長 伊藤 公人(いとう・まさと)

“心の声”に寄り添う医療を
「患者さんのことが、本当に好きなんです」。
そう語る伊藤公人医師の声は穏やかで、どこか“ひだまり”のような温かさを帯びていた。
診察室では、患者が話し終えるのを静かに待ち、頷きながら言葉を受け止める。
病気を“治す”ことだけにとらわれず、その人の生活や背景に目を向け、「この人にとって本当に必要なことは何か」を常に考える。
数値では測れない“心の声”に耳を傾ける。
その姿勢こそが、伊藤医師が大切にしてきた医療のかたちだ。
「楽しそうだな」から始まった医師の道
子どもの頃、伊藤医師にとって“医師”という職業は、特別な憧れではなかった。
ただ、どこか「楽しそうだな」と感じていたという。
「もともと人と関わることが好きだったんです。なので、目の前の人と関われる仕事がいいなと思っていました。」
決定的な転機は、自身の入院経験だった。
真剣に患者に向き合う医師たちの姿、優しく支える看護師の存在。
「この人たちと一緒に働きたい」と思えた瞬間が、進路を決めた。
「“人のため”というより、“この空間で働く自分が好きだ”という感覚が強かったです。それが結果的に、人を支える仕事に繋がったんだと思います。」
その“感覚”を軸に、医師としての道を歩み出した。
医療は対話から生まれる
大学卒業後、複数の診療科を経験する中で、最も自分らしさを感じたのが内科だった。
「内科は、人と対話する機会が圧倒的に多い。患者さんの生活や考え方の中にこそ、病気の背景が隠れていると感じました。」
内科の世界には、救急対応のようにスピードが求められる場面もあれば、慢性疾患を長く支える時間もある。
「両極端を経験できたことが、自分のキャリアに大きかったです。アカデミックな知識と、人との信頼関係を築く力、その両方が磨かれました。」
医療技術の進歩が加速する一方で、伊藤医師が見つめるのは「心の文脈」だ。
「数値や検査結果だけでは見えない“苦しさ”があります。そこに気づくには、時間をかけた対話が必要なんです。」

氷山の下にある“見えない苦しみ”に手を伸ばす
伊藤医師は、緩和医療のバックグラウンドを持つ。
その経験が、日々の診療の根幹を支えている。
「患者さんの苦しみって、氷山の一角なんです。見えている症状の裏に、気づかれない痛みや不安が隠れています。」
それは、患者本人だけにとどまらない。
「介護をしているご家族も、同じように疲れていきます。だから診療の中で、“家族の支援”を意識するようにしています。」
この言葉に象徴されるのは、「医療=共助の場」という考え方だ。
治療と同時に、家族や生活者の視点を尊重する。
その姿勢が、地域で信頼を集める理由でもある。
「喫茶店に行くように通える」クリニックを目指して
ひだまり内科クリニックの待合室は、カウンター越しにスタッフと会話ができる。
壁にはアートポスターが飾られ、BGMには穏やかなジャズが流れる。
「病院というより“喫茶店”。その方が、患者さんも本音を話しやすいんです。」
肩書きや権威よりも、安心感を大切に。
白衣の緊張よりも、対話の温もりを重視する。
その空気をつくることこそ、伊藤医師の哲学だ。
「“権威を保つ”って、悪いことではないんです。でも、敷居の高さが患者さんを遠ざけてしまうこともある。僕は、生活の延長線上に医療があるような存在でありたいと思っています。」
その理想を体現するように、クリニックでは定期的に地域イベントも開催している。
音楽会や健康講座など、医療の枠にとらわれない試みだ。
「子どもからお年寄りまで、みんなが立ち寄れる“居場所”でありたいんです。」

連携で紡ぐ、持続可能な地域医療モデル
地域では、近年病院の経営統合や再編の話題が増えている。
医療を取り巻く環境が大きく変わる中で、伊藤医師は「地域医療の持続可能なモデル」を模索している。
「病院とクリニックが対立するのではなく、共存できる仕組みを作りたいと考えています。お互いの得意分野を生かしながら、地域全体で患者さんを支えられる形が理想です。」
その実現のため、地域の医師同士の連携にも積極的だ。
「一つの施設で全てを完結させる時代ではない。連携こそが、次の医療のかたちになると思っています。」
「患者さんが幸せでいてくれたら、それでいい」
インタビューの最後、伊藤医師は少し照れたように笑った。
「“患者さんが好き”っていうと、誤解されるかもしれませんが、本当にそうなんです。例えば、ニキビで悩んでいた若い女性が、治療を経て笑顔になっていく。その瞬間が、一番うれしいんです。」
医療の現場に立ち続ける理由を問うと、「患者さんが幸せになってくれたら、それでいいんです」と短く答えた。
その一言に、伊藤医師の全てが詰まっている。
医療は技術ではなく、“人と人が支え合う営み”であることを、あらためて思い出させてくれる。
医療は、暮らしのすぐ隣にある
ひだまり内科クリニックで流れる静かな時間の中には、人の心の声がある。
伊藤医師はその声に耳を傾け、患者と家族、そして地域全体を見据えた医療を紡いでいく。
対話とぬくもりで地域を包み込み、暮らしのそばで支え続ける。
そんな医療のかたちが、ここにはある。
ひだまりのように、やさしく、あたたかく。
今日もまた、伊藤医師は一人ひとりの人生に寄り添っている。

ひだまり内科クリニック
院長 伊藤 公人(いとう・まさと)
「ひだまりのような医療」を理念に、対話とぬくもりを重視した診療を実践する内科医。緩和医療の経験から、症状の裏にある“不安”や“生活背景”にまで目を向け、患者と家族の双方を支える医療を大切にしてきた。待合室を“喫茶店”のような空間に整え、地域が気軽に立ち寄れる居場所づくりにも取り組む。技術だけに頼らず、人が人を支える営みとしての医療を追求し、地域に寄り添う持続可能な医療モデルを紡いでいる。
